長期修繕計画作成ガイドラインについて

築40年以上の「高経年マンション」の増加に伴い、居住者の高齢化・非居住化が進む中、マンションの「老朽化」「管理不全」を予防するために「マンション管理適正化法」が2020年に改正され、地方公共団体による「管理計画認定制度」もスタートしました。

この中で、建物の「老朽化」を予防し、適切に維持管理をしていくために必要なものが「長期修繕計画」であり、その作成を支援するための「長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」もその一貫として、2021年9月に改訂されました。

マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、建物の経年劣化に対して適時適切な修繕工事を行っていくことが重要です。

そのためには適切な「長期修繕計画」を作成し、これに基づいた修繕積立金の額を設定し積み立てていくことが必要です。

「長期修繕計画」とは

分譲マンションは、専有部分と共用部分に分かれており、管理組合が管理する範囲は共用部分になります。

建物は、経年劣化が免れないもので、適時適切に修繕工事を行う必要があります。

ただし、修繕工事の費用は多額になり、一括で徴収することは難しい場合が多く、必要な修繕工事が行えなかったり、後回しになり、後で大きな負担が発生することにもなりかねません。

長期修繕計画は、このようなことがないように将来予想される修繕工事等を計画し、必要な費用を算出し月々の修繕積立金を設定するために作成するものです。

「長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」

「長期修繕計画作成ガイドライン」は、長期修繕計画の作成または見直しにあたっての指針を示すもので、基本的な考え方と標準様式を使用しての作成方法を示すことで計画の内容及び修繕積立金額の設定等について区分所有者間で合意形成を行いやすくするために作成されたものです。

①建物・設備の概要、②調査診断の概要、③長期修繕計画の内容(計画期間、修繕項目・周期・工事費等)、④収支計画 を含んだもので作成し、これに基づいて⑤修繕積立金の額の算出を行います。

「長期修繕計画作成ガイドライン」の改訂

「マンション管理適正化法の改正」「管理計画認定制度」のスタート等に伴い、「長期修繕計画作成ガイドライン」も改訂されました。

 

<主な改訂の内容>
★ 計画期間は30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回以上含まれる期間以上とする。

(現行、既存マンション25年以上、新築30年以上)

★ 大規模修繕工事の修繕周期は、工事事例等を踏まえ一定の幅をもたせた記載となった。

★ 大規模修繕工事の周期の記載例:現行12年 → 改訂12~15年

★ 建物及び設備の劣化状況、工事仕様、工法や部材の技術革新によって適切な修繕周期が変わる可能性に留意。

★ 「ガイドラインの目的」のコメントとして、築古のマンションの省エネ性能を向上させる改修工事(壁や屋上の外断熱工事や窓の断熱改修工事等)の、環境や水光熱費の削減への有意義性を追記。
★ 工事の対象範囲として、給排水管取替工事を共用部と専有部を同時に行うことにより、専有部を単独で行うよりも費用が軽減される場合は、これらを一体的に工事を行うことについてのコメントが記載されている。

 

 「管理計画認定制度」における長期修繕計画に関わる認定基準

① 長期修繕計画が「長期修繕計画標準様式」に準拠し作成され、長期修繕計画の内容及びこれに基づき算定された修繕積立金額について集会にて決議されていること。

② 長期修繕計画の作成又は見直しが、7年以内に行われていること。

③ 長期修繕計画の実効性を確保するため、計画期間が30年以上で、かつ、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれるように設定されていること。

④ 長期修繕計画において、将来の一時的な修繕衝立金の徴収を予定していないこと。

⑤ 長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと。

⑥ 長期修繕計画の計画期間の最終年度において、借入金の残高のない長期修繕計画となっていること。

おわりに

「長期修繕計画」は、まずは策定してみることが大切です。それにより建物の状況や将来に亘っての必要修繕工事の内容や積立金の推移等がわかります。高経年のマンションは、最初の積立金が低く設定されているケースが多いので、途中で積立金の値上げをしていても、外壁・屋上防水等の大規模改修に加えて給排水管の改修、アルミサッシの更新等まで実施する余裕がないのが現状と思われます。「管理計画認定制度」の認定基準を満たさなくても、一定の居住環境を維持することは可能だと思われます。

長期修繕計画を策定し、5年毎に見直していくという過程の中で、居住者間のマンションの維持管理に対する意識が高まり、居住者間のコミュニティ等も促進されるというメリットもあるのではないかと思われます。

GA総合建築研究所  大賀 博美

福管連技術顧問 一級建築士