「通常の使用に伴わないもの」又は「通常の使用に伴うもの」の判断とは

【平成22年4月23日最高裁】
▼仙台地方裁判所(平成21年3月5日)
あるマンションで、区分所有者5名が、窓ガラスや窓サッシの戸車等の改修工事を行い、この費用は、管理組合負担か、区分所有者個人の負担かを巡って争われました。
このマンションの管理規約では、ほぼ標準管理規約と同じように窓枠や窓ガラスは専有部分に含まれないとし、ただし専用使用権のある部分と定められています。地裁はこの規約に照らし、この5名が行った改修工事は専用使用権のある共用部分だと判断しました。
次に専用使用権を有する共用部分の改修に要した費用は、通常の使用に伴う費用か、それ以外の費用かが争点になりました。裁判所は、5名という複数の区分所有者が同時期に工事を必要としたことは、その原因が経年劣化に伴うもので、「通常の使用に伴う管理に該当しないと解するべきである」としました。
また、通常の使用に伴う管理に当たるかどうかが不明の場合は、総会決議に基づき管理組合負担で実施することが可能で、この費用負担を記した決算報告書が定期総会で承認されているとし、その改修費用は管理組合負担としました。
▼仙台高等裁判所(平成21年12月24日)
一審判決を不服とした管理組合は高等裁判所に訴訟しました。工事を行った5名のうち4名とは和解が成立し、1名のみが争いましたが、高裁は1審判決を取り消し、個人負担とする管理組合の請求と認めました。
判決理由は、この工事箇所は専用使用権の共用部分ではあるが、この改修工事は「網入り窓ガラス並びにサッシの戸車及びクレセントについてされたもの」であり、「通常的な使用に伴い必然的に劣化していくものと考えられるのであるから、これらの部分の劣化は、専用使用権者の通常の使用に伴うものと認められる」としました。
一方、「通常の使用に伴わないもの」とは「計画的に一斉修繕したり、住宅の性能向上のために一斉交換する場合」を言い、経年劣化は「通常の使用に伴うもの」と判断しました。
また、総会決議の有効性について詳細は省略しますが、「通常の使用に伴うもの」でも総会決議があれば管理組合負担とすることができるが、この件では、送付された議案書には個別、の具体的な内容が記載されてなく、管理組合が負担するとの決議がされたとみることができないとしました。
▼最高裁判所(平成22年4月23日)
控訴審で逆転敗訴した区分所有者は、この控訴審判決を不服として最高裁判所に上告しましたが、最高裁は「上告理由がない」として上告を認めない決定をし、仙台高裁の判決が確定しました。
▼管理組合の実務指針
窓ガラスの消耗品は、戸車、クレセント、ビート(サッシとガラスの間に挿入するゴムパッキン)があります。戸車とクレセントは窓の開閉回数に比例して劣化します。ところがビートは開閉回数には関係なく経年と共に自然劣化します。使用と共に劣化する消耗品の取替は区分所有者負担、使用に関係なく自然劣化する消耗品の取替は管理組合負担と考えると分かりやすいかと思います。
戸車とクレセントは共用部分であっても個人の負担であるから管理組合は全く取り組む必要はないと考えるのは間違いでもあります。平均的な使用で劣化し寿命に達したと判断した時点で全戸一斉に管理組合負担で取替えることが必要です。ただこの場合すでに個人で取替えた住戸がある場合は、公平性を考えて改修工事費を返却することも考えられます。窓ガラスの消耗品一斉取替え時期や窓枠の更新時期を長期修繕計画で明らかにしておくことが大切です。
多くの管理組合では窓ガラスの維持管理については長期修繕計画に入っていないのが現実です。国交省監修の改修によるマンション再生マニュアルによれば、戸車・クレセント・ビート等は12~24年周期、サッシ等は36~48年周期で取替えとなっています。これを参考にして消耗品の取替は2回目の大規模改修時(または24年)に、窓ガラス及び窓枠更新は4回目の大規模修繕時(築48年)と盛り込まれている管理組合もあります。