マンションの共用部分に生じた不当利得の返還請求権の行使権者

(最高裁判決平成27年9月18日判タ1418号92頁)

1 事案の概要

あるマンション(「本件マンション」といいます。)において、区分所有者の一人であるYが、第三者A(携帯電話会社)に対して、携帯電話基地局(アンテナの支柱やケーブル配管等)を設置する目的で、共用部分であるバルコニー、塔屋および外壁等を月12万円で賃貸する旨の契約(「本件賃貸借契約」といいます。)を締結し、Aは、アンテナの支柱やケーブル配管等を共用部分に設置しました。

そこで、本件マンションの他の区分所有者であるXが、Yに対して、共用部分を賃貸して得られた本件賃貸借契約の賃料のうち、Xの持分割合相当額について不当利得が成立すると主張して訴訟を提起しました。

なお、本件マンションの管理規約には、共用部分であるバルコニーについては、各バルコニーに接する建物部分の区分所有者が無償で使用することができる旨が定められており(第9条第1項)、また、塔屋、外壁等については、事務所所有の区分所有者に対し、事務所用冷却塔および店舗・事務所用袖看板等の設置のため、その用法に従い、前項と同様無償にて使用させることができるものとする(第2項)旨の規定(無償使用についての定め)がありました。

2 原審(東京高裁判決平成24年12月13日)の判断

原審は、①管理規約における無償使用についての定め(上記第9条第1項、第2項)が適用されるとのYの主張を排斥し、不当利得が成立することを認めましたが、②区分所有建物の共用部分の管理は団体的規制に服するから、本件マンションの区分所有者であるからといってXがその不当利得返還請求権を行使する余地はないなどとして、Xの請求を棄却しました。

これに対し、Xが上告受理申立をしたところ、最高裁判所第二小法廷は、上告審として事件を受理しました。

3 最高裁の判断

最高裁は以下のように判示し、Xの上告を棄却しました。

(1) 不当利得の成立について(①無償使用についての定めについて)

YがAをして設置したアンテナの支柱やケーブル配管は、管理規約第9条第2項にいう「事務所用冷却塔および店舗・事務所用袖看板等」にあたらないから、無償使用についての定めに該当せず、不当利得が成立する。

(2) 不当利得返還請求権の帰属につい

一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権は各区分所有者に帰属する」から、各区分所有者は、原則として、上記請求権を行使することができる

(3) 不当利得返還請求権の行使主体について(②について)

  •  他方で、区分所有法第18条第1項本文及び第2項は、共用部分の管理に関する事項は集会の決議で決するか、または規約で定めをする旨を規定し、共用部分の管理を団体的規制に服させている。
  •  そして、共用部分を第三者に賃貸することは共用部分の管理に関する事項にあたるところ、上記請求権(不当利得返還請求権)は、共用部分の管理と密接に関連する。
  •  区分所有者の団体(管理組合)は、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を集会で決議し、または規約で定めることができ,この定めがある場合、各区分所有者は、上記請求権を行使することができない。
  •  区分所有者の団体の執行機関である管理者が共用部分の管理を行い、共用部分を使用させることができる旨の集会の決議または規約の定めがある場合には、(上記請求権を区分所有者の団体のみが行使することができる旨が明示されていなくとも、)区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解すべきである
  •  本件マンションの管理規約には、管理者が共用部分の管理を行い、特定の区分所有者に無償で使用させることができる旨の定めがあり、この定めは、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解すべきであるから、Xが行使することはできない。

4 実務の指針

⇒ 規約等において共用部分の通常の管理を管理者に委託する旨の定めが【ある】場合(この判例と同様のケースです。)、共用部分について生じた不当利得返還請求権の行使を団体のみが行う旨の規約の定めまたは集会の決議がなくても、団体のみが同請求権を行使することができるため、個々の区分所有者からの請求はできません。

⇒ 他方で、規約等において共用部分の通常の管理を管理者に委託する旨の定めが【ない】場合(多くのマンションはこちらに該当すると考えられます。)にあっては、同請求権の行使を団体のみが行う旨の規約の定めまたは集会の決議があって初めて団体のみが同請求権の行使ができることになるので、上記規約等がない限り、区分所有者からの個別の不当利得返還請求を制限することはできないと考えられ、管理組合による管理に実際上支障を来すことに繋がりかねません。規約の規定を再確認するようにしましょう。