買ったときよりも高く売れるマンション!

NPO法人福岡マンション管理組合連合会
理 事 長  杉 本  典 夫
 大阪府枚方市にある築30年、総戸数380戸の団地「労住マキノハイツ」では、数年前、70平方メートル弱の広さの住戸が600万円で「投売り」されていたが、最近はリフオーム済みで900万円近くまで回復した。

 京都市伏見区にある築32年、総戸数280戸の「ファミール伏見」では、分譲時780万円だった3LDK、70平方メートルの住戸が、現在、リフォーム済みで1300万円。不動産屋の空き待ちリストには入居希望者が名を連ねているという。

 以上の2例は、ノンフィクション作家山岡淳一郎氏が、週間ダイヤモンド(2006/09/02)及びNBonline(2007/05/25)で紹介されている事例である。普通なら、マンションの中古価格は下がり続けるものだが、なぜ上昇に転じたのか。

山岡淳一郎氏のレポートをさらに紹介しよう。

大規模修繕への取組みが転機
 マキノハイツの転機は、7年前の大規模修繕にあるという。それまでは管理組合役員のなり手もなく、管理会社に維持管理すべてを丸投げしていた。

 しかし、建物の老朽化が進み、高齢者の一人暮らしが増えて、「何とかしなくては」と考えた住民が管理組合連合組織である「NPO法人京滋マンション管理対策協議会」に相談したことから流れが変わった。「自分の資産は自分で守ろう。」と第三者からこの原則の大切さを教えられた住民たちは「素人は手を出すな」と言わんばかりの管理会社のやり方からの自立と「主体性の確立」に向けて走り出した。

 たまたま管理組合の理事長になった者が、管理会社に過去の修繕工事の履歴を出してほしいと言っても回答なし。いつ、どこをどう修繕したのかが分からなければ、長期修繕計画は立てられない。

 管理費の使い道も不透明。領収書類も仕分けせず、袋の中に突っ込んだまま。長距離の私用電話はかけまくる。まるで団地の『主』のような振る舞い。いろいろ質問をしたら、素人は黙っとれ、という感じで話にならない。初めは素人が専門家に太刀打ちできるかと不安だったが、住民の中にも建築や不動産、金融のプロがいて徹底的に勉強し、ようやく1年後に、管理組合主導で業務が進むようになった。

 そうして、これまで管理会社に委ねていた工事を管理組合が取り組むことにした。定年退職した住民たちが中心となって、他のマンションの改修工事現場を見学、材料や工法の勉強も重ねた。

そうして、管理会社への丸投げより格段に安い価格で大規模修繕工事を完遂。続いて、電気容量のアップ、駐車場・駐輪場の増設、地上デジタル放送対応工事までも終わらせてしまった。

資産価値を守るのは安心感
 こうした建物の修繕と同時に、住民は、コミュニティの形成にも力を入れた。まず、「かけはし」という高齢者住民向けの互助組織を立ち上げ、仲間どうしが、1回一律300円で網戸の張り替えから包丁研ぎ、パッキン交換、散髪など、かゆい所に手が届くサービスを提供。

 やがて、集会室での食事会、藤棚の下での「カフェテラス」も設けられ、高齢者ばかりでなく、子供たちも集まってくるようになった。このようにお互いが顔を合わせることで着実に「安心感」も生まれると山岡淳一郎氏は指摘する。

 そうして、「人間は、プライバシーを守りたい一方で、他人のつながりを求める厄介な動物だ。一人では生きていけない。コミュニティの安心感がマンション選択の重要な基準になる日はそう遠くない。」と結ばれているが名言である。

ファミール伏見の夏祭り
 夏の宵、団地の中庭に勇壮な掛け声とともに御神輿が入ってくる。ステージでは子どもの「のど自慢」。お好み焼きに生ビールの屋台。すべて住民の手づくり。山岡淳一郎氏は「この夏祭りのにぎわいが、築後32年を経て、なおファミール伏見の資産価値を高めている」と説明する。

 ファミール伏見は、20年ほど前、孤独死が発生。「これではいかん」と団地にいる20数人の独居老人を見守るチームが編成され、若い奥さんたちが声かけをする。正午前になると管理棟宿泊室を改築したサロンに高齢者が集まってくる。近くの高齢者総合福祉施設「ももやま」から、ちらし弁当など配食サービスが届く。ももやまからケアマネジャーや管理栄養士がきて、各テーブルを回り、何気なく話しながら、健康や生活の相談にのる。

 サロンは、65歳以上の入居者の集まり「寿会」のアンケートで、そのまま住み続けたいとの希望と同時に健康や介護の不安が大きいことが分かり、管理組合が700万円を掛けて改築したものだ。

多様な小集団活動
 ファミール伏見では、ゴルフ、ソフトボール、ボウリング、カラオケ、旅、懇談、写真、読書に防犯パトロール・・・と多様な小集団活動が日々行われている。ここに春夏秋冬の四季の行事も加わる。

 仕事に忙しい現役世代には、1年交代の輪番理事をしてもらう。役割は自治会新聞の配布などだが、マンションに親しみを持ってもらうことが狙い。やる気のある人は同好会の委員に抜擢し、後継者の育成も心がける。

 山岡淳一郎氏は、ファミール伏見のように高い市場価値を保つために、米国の例も引き、次のように結んでいる。

 米国中古市場が盛況なのは、根本に「人が住み続けてこそ住宅と住宅地の価値は高まる」という当たり前の哲学があるからだ。「使用価値」を「市場価値」に結びつけるシステムが機能する。この本質にアプローチできれば、日本でも、ファミール伏見のように高い市場価値を保つことができる。

山岡 淳一郎(やまおか・じゅんいちろう)

1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。住宅、医療、企業活動、海外紀行、スポーツなど幅広く執筆中。著書は『マンション崩壊 あなたの街が廃墟になる日』(日経BP社)、『あなたのマンションが廃墟になる日―建て替えにひそむ危険な落とし穴』(草思社)、『命に値段がつく日』(中公新書ラクレ・共著)など多数。


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